阿東に広がる田園風景、その中を走る一台の移動販売車。「ほほえみの郷トイトイ」の移動販売車トイトイ号は、単なる「買い物支援」を超え、地域に暮らす人々の安心・安全な日常を支える大切な存在です。高齢化や人口減少が進む中で、買い物の機会を提供するだけでなく、住民との対話や信頼関係を通じて、地域のつながりを生み出しています。
しかし、時代が変わる中で、この移動販売車も新たな課題に直面しています。物価や原油価格の高騰の影響、ただのビジネスではなくソーシャルビジネスとしての経営の必要性、そして将来の地域需要をどう見据えるか――その維持と進化が今問われています。
今回の記事では、「ほほえみの郷トイトイ」の移動販売車が地域に果たす役割や、経営を持続可能にするための取り組み、さらにはこれからの移動販売車のあり方について掘り下げます。移動販売車がもたらす「地域の支え手」としての価値など、その裏側に迫ります。
移動販売車トイトイ号の強み
ほほえみの郷トイトイの移動販売車トイトイ号は、買い物が困難な地域住民にとって、生活必需品を届ける重要な役割を果たしています。特に高齢化や過疎化が進む農山村地域では、単なる買い物支援ではなく、移動販売車を軸として住民同士の交流や販売員との対話を通じて、孤立を防ぎ地域のつながりを深めています。
また、移動販売車の利用によって自然と利用者の方の外出の機会を増やし、健康維持にもつながります。さらに、販売員と利用者という構図ではなく、「ご近所以上、家族未満」の立ち位置で販売員が利用者の日々の様子を見守るなど、地域全体の安心感を支える存在となっています。このように、トイトイの移動販売車は単なる商業活動を超え、地域の暮らしを支える重要なインフラとして機能しています。
他の移動販売車にはないトイトイ号の強みポイント
- 「ご近所以上、家族未満」という立ち位置で、利用者の方と接し、常に販売員同士でキントーン(クラウド型の業務管理プラットフォーム)で利用者の日々の様子を共有している。それにより、いつでも安心できるサービスとして信頼関係を築き、それが利用者の方の購買意欲につながっている
- 買い物代行など利用者の必要なものを届けるサービス提供もあるが、「お客様にお買い物を選んでもらう」選択する楽しみも暮らしの中では必要だと思っているため、移動販売車でのお買い物時間を楽しんでもらう。
- ほほえみの郷トイトイにはミニスーパーが併設されているため、移動販売車だけの商品の在庫を抱える必要がなく、特に日配品など期限が短いもので移動販売車で購入がなかったとしても、それをスーパーで店頭販売することができる
- 地域おこし協力制度を活用し、中間支援団体として協力隊を支援しながら、地域を知る機会として移動販売車業務に配属する。協力隊は地域のリアルな声を聞くことができ、事業としては人件費の負担がなく運営をすることができる
移動販売車トイトイ号のこれからあるべき姿とは
物価高騰など社会的背景による過渡期
移動販売車はこれまで、地域の暮らしを支える重要な手段として機能してきました。しかし、近年の物価や原油価格の高騰により、運営の維持が難しくなることが見込まれ、現在は「これからどうするべきか」という岐路に立たされています。さらに、数年後には人口減少による需要の低下が見込まれる中で、移動販売だけに頼るのではなく、新たな形で地域を支える方法を模索する必要があるかもしれません。
地方だからできる共同コミュニティでの暮らしの可能性
例えば、地域コミュニティの形成や共同生活の場をつくることで、移動販売車を走らせるのではなくそこで生活インフラを賄えるように整備します。コミュニティ内では多世代が交流できる環境を提供し、人口減少して行動範囲がコミュニティ内だけになったとしても、地域全体の活気がそこで生まれることが考えられます。気兼ねなく人が集まり、交流できる場所を設けることで、小コミュニティでも濃い住民同士のつながりを強化することが可能です。
よく「老後、家族に迷惑をかけないためにお金を貯めている」「年を取って頼れるのはお金だけ」という声を聞きますが、これまで山あり谷あり苦労して生きてきた老後に、死後のためにお金を準備するというのは悲しいことです。「これまで頑張ってきたからこそ、最後まで楽しく生きる」ことができるよう、貯蓄するほど大きなお金がなくても共同コミュニティの中で安心・安全に暮らせる場所が提供できたら、地域の幸せにつながるのではないでしょうか?
移動販売車の経営維持と利用者の方との関係をよりよくし、将来の地域のために
また、現状として移動販売の在り方も見直す必要があります。単に多くの商品を提供するのではなく、住民一人ひとりのニーズを丁寧に聞き取り、必要な商品を無駄なく届ける工夫が求められます。信頼関係を基盤とし、販売ロスを最小限に抑えることで、持続可能な運営を目指すことも重要です。
地域に移動販売車が地域内を巡回することが当たり前の今、地域の方にそれがあるから地域が支えられていることを感じてもらい、ともに支えようという考えをもってもらうことが必要といえます。
「今は大丈夫でも、数年後免許返納により必要な存在になるから継続してもらいたい」という気持ちから、移動販売車で商品を購入することで応援している方もいるように、地域がこれから加速する地域課題に対してどうすべきかを地域とともに考かなければなりません。
儲からないけれど、地域に必要不可欠なもの
移動販売車の事業は、利益を第一優先にするビジネスモデルでは成立しません。これは、いわゆるソーシャルビジネスの一つであり、「儲からないけれど、地域にとって不可欠なもの」としての役割を果たしています。ビジネスの観点から見れば、人口減少が進む地域よりも人口が多い地域で事業を展開するほうがよっぽど効率的です。しかし、この事業の本質は「地域を支える」とい部分にあります。
「移動販売車の事業者」ではなく「移動販売車を通じて地域を支えるための事業者」でなければ、阿東地域をはじめ少子高齢化など地域課題のある地域でビジネスを行うことは困難です。
「もうけよう」という考え方ではなく、「地域を支える」という精神を基盤に、あえてビジネスとしては難しい状況に挑む姿勢が必要です。普通のビジネスモデルでは成立しない環境であっても、地域の暮らしを支えるために工夫と努力を続けることが求められます。