

高齢化率約60%、少子高齢化が著しく進む山口市阿東。阿東のような過疎化が進む農山村地域では、「少子高齢化」「空き家問題」「耕作放棄地」「担い手不足」などの地域課題が深刻です。山口市阿東地福にある「小さな地域拠点」として地域の笑顔・安心・安全を見守り支える「ほほえみの郷トイトイ」。現在はその取り組みが総務省のふるさと大賞(優秀賞)に選ばれるほど、地域づくり・活性化の起点として活動されていますが、拠点立ち上げ時から現在に至るまでには様々な苦悩があったそうです。今回は、「ほほえみの郷トイトイ」事務局長である高田新一郎さんに、「小さな地域拠点」トイトイ設立の経緯についてお話を伺います。
地域拠点としての役割:交流スペース活用の取り組み事例

--これまで地域拠点トイトイの立ち上げまでについてお話を聞いてきました。今回はトイトイ設立後について伺っていこうと思います。地域拠点として地域住民の声に寄り添った結果、拠点内の交流スペースを活用してさまざまな新しい事業も展開してきたそうですね。
高田 「ほほえみの郷トイトイ」は、阿東地域の人々が安心して暮らし続けられるようにという思いからスタートしました。特に高齢者の生活支援や地域コミュニティの維持を目的に、“買い物ができる”“集える”“支え合える”場所として、設立から10年経過した現在もほほえみの郷トイトイ構想※に基づき機能しています。拠点内にある交流スペースを活用し、さまざまな事業に取り組んできました。
※地福ほほえみの郷構想とは、地域に住む、私たち一人一人が自分の住む地域(故郷)の将来に責任を持ち、あるべき未来を思い描きながら、自発的かつ主体的に地域づくり(地域経営)に取り組み、地域に誇りと安心を取り戻すことで、地域にみなさん の笑顔があふれ、笑顔で心がつながる幸せ感いっぱいの故郷づくりに取り組むこと。
--具体的にはどのような事業で交流スペースを活用してきましたか?
高田 健康づくり事業、介護予防事業、空き家リノベーション事業などを実施してきました。コロナにより現在も取り組みが中断している事業もありますが、取り組みがきっかけで生まれた地域拠点での多世代交流は現在も続いています。
介護予防事業「いきいき広場(いきいき百歳体操)」

--毎週水曜日の午後、金曜日の午前に地域の方が楽しそうに「いきいき百歳体操」をしていますよね。
高田 そうですね。平成29年4月から、市の委託を受けて「介護予防事業・元気いきいき広場」という介護事業を始めました。現在(令和7年10月時点)は、毎週水曜日と金曜日に10名ほどの方がトイトイの交流スペースに集まって、楽しくおしゃべりをしたり、体操をしたりしています。最近ではおしゃべりが楽しくて「お昼ご飯や晩御飯をたべて帰ろうか」と体操後も交流スペースで過ごす人もいるくらいです。
--地域の方が運動をするだけではなく、わいわい楽しく過ごす空間としてもなっているんですね。多くの地域の方が参加されているといろんな思い出がありそうですね!印象に残っている出来事などはありますか?
印象に残っているのが、当時93歳だった利用者の方のお誕生日をみんなでお祝いしたときのことです。体操の時間にサプライズでケーキを用意して、「ハッピーバースデー」を歌ってお祝いしたんです。すると、その方が「生きてきた中で一番うれしい誕生日だった」と言ってくださって。本当にその言葉が忘れられません。
単なる介護事業の場ではなく、地域の人がつながる“交流スペース”として機能していたからこそ生まれた喜びだと思いますし、トイトイという拠点があったからこそ実現できた出来事だと感じています。
--地域のよりどころとして、とても大切な場所のひとつとして交流スペースは活用されているんですね。「いきいき百歳体操」の取り組みが始まってから8年が経っていますが、継続にあたっての採算はとれているんでしょうか?
高田 正直、この事業自体は利益にはつながりません。(笑)でも、こうして継続できているのは、利用者の皆さんが毎週の体操を心待ちにしてくれているからなんです。体操は30分ほどで終わるのですが、その前後におしゃべりをしたり、一緒にお昼ご飯を囲んだりする時間が本当に楽しそうで。そういう光景を見るたびに、地域の居場所としての大切さを実感しています。
認知症支援事業「オレンジカフェ」

ーー 同じ健康づくりを目的とした事業では「オレンジカフェ」に取り組まれていたそうですね。どんな活動だったのですか?
高田 はい。オレンジカフェは、認知症の方やそのご家族、地域の方々、医療・介護の専門職などが気軽に集まって、交流や情報交換を行う場です。認知症への理解を深めながら、住み慣れた地域で安心して暮らし続けることを支援する目的で運営されています。トイトイでは、平成29年4月から不定期で開催してきました。
ーー阿東地域は高齢化が進んでいますが、地域の実情から見ても、いきいき百歳体操と合わせて地域の交流の場はとても大切ですね。
高田 そうですね。阿東は医療機関や介護施設が都心部ほど多くなく、超高齢化が進んでいます。田んぼや畑の世話をしながら、老老介護――つまり、高齢者が高齢者を介護する世帯も少なくありません。田舎ならではのご近所同士の見守りや支え合いはあるものの、認知症になると一人暮らしは難しくなりますし、介護する家族にも大きな負担がかかります。
ーー確かに、地域で支え合う仕組みがより求められますね。
高田 はい。阿東のように高齢者の割合が高い地域では、オレンジカフェのように認知症について理解を深めながら、気軽に交流や情報交換ができる場所が本当に必要です。トイトイでも週に数回、オレンジカフェを開催していましたし、近くの矢野商店さんでも「ぶどうの房」というオレンジカフェを毎月23日に実施されています。地域に根ざした支え合いの一つとして、どちらも大切な取り組みになっていると思います。
交流スペースの活用で広がる地域課題解決の可能性
過疎化と高齢化が進む山口市阿東において、「小さな地域拠点」として機能してきたほほえみの郷トイトイは、交流スペースを中心に、介護予防事業や認知症支援、多世代交流の場づくりなど、地域課題解決に直結する取り組みを積み重ねてきました!高齢化率60%を超える農山村地域で、高齢者の“居場所”と“つながり”を確保することは、地域づくりにおいて欠かせない要素です。トイトイが10年間続けてきた取り組みは、過疎地域が持続可能性を取り戻すための重要なモデルケースともいえます。
しかし、交流スペースの活用はこれだけにとどまりません!トイトイは、地域住民の声を受け止めながら、起業支援や地域食堂、空き家リノベーション事業など、新たな地域活性化の取り組みも拡大しています。後半では、こうした“交流スペースを活かした地域課題解決の実践例”をさらに深掘りし、過疎地域の未来をつくる具体的なアクションについて紹介していきます。
過疎地域の課題解決に役立つ「トイトイの地域課題解決の手引き」
阿東地域で続く「小さな地域拠点」づくりの実践は、過疎地域の未来を考えるうえで多くの学びを与えてくれます。
さらに詳しく、トイトイがどのように住民主体の地域活動を育ててきたかを知りたい方は、こちらをご覧ください!
👉 合わせて読みたい!地域課題解決のための実践ステップを実例を用いて紹介した、『地域課題解決の手引き』についての関連記事はこちら

地域課題解決のための第一歩!とても重要な「地域課題解決のための指針」となるビジョンの設定について解説しています。

ビジョンの設定ができたら、どう地域にビジョンを落とし込んで行動していくかについて学べます!
地域課題解決の手引き ~③コミュニティ動員と、モチベーション向上~

ビジョンを共有し、地域住民の共感を得ながら活動を広げるポイントを解説していますよ。

地域住民が一体となったら、予算や補助金制度など自治体や市町村との連携をどうするかについて解説しています。

地域課題の手引きとしてステップをお伝えしてきましたが、そもそもなぜ地域課題が必要なのかについて解説しています。

