高齢者が笑顔になる技術とは?ICT導入について現場実証からの提言(後編)

 高齢者向けiPad講習会を通じて見えてきた「人に寄り添う技術」の可能性。後編では、移動販売車の到着を知らせるスマートディスプレイの実証や、中学生と開発した「トイトイスイッチ」、そして今後のICT活用構想についてお話を伺いました。地域課題と向き合いながら、どのようにICTを暮らしに根付かせていくのか——そのヒントを探ります。

目次

地域の課題をICTでどう解決するか

―― 前編ではiPadを用いた地域の高齢者向けの講習会を実施し、技術は「使う」のではなく使う人のことを考えて、ニーズに合ったアプローチが必要だということをお話していただきました。後半は引き続き高齢者のIT化という点で、講習会以外に取り組まれてきたことなどについてお伺いしたいと思います。

 はい。移動販売車の到着を知らせる手段として、株式会社アイシンと協力してスマートディスプレイの実証実験を行いました。音楽が聞こえにくい高齢者のために、視覚で「もうすぐ到着」を知らせる仕組みです。
 地域を走る移動販売車は巡回中、専用の音楽を流すことで、利用者に「トイトイが来た」ということを伝えています。しかし難聴や耳が遠く聞き取れない利用者の方もいらっしゃり、音楽に気付かない(気づきにくい)ということがありました。そのため、株式会社アイシンとスマートディスプレイを活用した情報伝達の実証として、移動販売車が自宅近くに来たらスマートディスプレイでお知らせする実証実験を実施しました。

―― 私も現場で使ったことがありますが、便利な反面、実際に利用された方の声の中には「見なくても長年利用していてだいたい時間が分かるからあまり必要性を感じなかった」という地域の感覚に合わない面もありましたね。

 その通りです。技術的には素晴らしくても、使う側が「必要」と感じなければ定着しません。最新技術だからといって、そのまま現場に持ち込んでも意味がないと痛感しました。今までIoTデバイスに触れてこなかった高齢者世代には、なじみがないこともあってなかなかハードルは高かったかもしれません。そのため実際に導入・活用するためにはまだまだ改良が必要という結果でした。
 企業側は「こんな便利な最新技術があれば地域が豊かになる」と思案して地域へやってきますが、地域の実際の声を聞いたり、便利で簡便だとしても高齢者の方が実際使って体験してみると、想定とは違ったということは少なくありません。

地元中学生とつくるIoT「トイトイスイッチ」

 もう一つの取り組みとして、地元IT事業者と連携し、中学生が開発に関わった「トイトイスイッチ」というIoTデバイスも試しました。これは、販売員へ通知を送るための非常にシンプルな装置で、高齢者でも直感的に操作できるのが特徴です。

―― これは難しい機能ではなく、シンプルに「伝える」という目的に特化していましたね本体の部品は3Dプリンタで制作されており、さまざまな技術がつまったIoTデバイスといえますね。

 今後、こうした草の根的な開発が大切だと思います。単に技術を見せつけるのではなく、使う人の暮らしから「何が必要なのか」「技術をどう活用するか」を模索しながら作っていくことが不可欠です。

トイトイアプリ構想とこれからのICT化

―― 今後、地域のICT化をどのように進めたいとお考えでしょうか?

 まず身近なところでいえば、実証を行った移動販売車に関するアプリですね。悪天候などさまざまな理由で各世帯の訪問予定時刻が遅れたり、台風や積雪で当日の朝に運休する場合があります。紙のポイントカードも煩雑で、紛失してしまう利用者の方も少なくありません。当日の移動販売車の現在位置情報、営業日・時間に関しての変更のお知らせ、ポイントカード機能の付与など――スマホのアプリでこうした情報を一元化できたら、地域の方のさまざまな不安を解消できるのでは無いかと考えました。

―― スマホを一人一台持っている今なら、より現実的ですね。

 スマホを通じて「情報共有」と利用者の方の「安心感」、その両方を提供できるようにしたい。販売員側の業務負担も減り、地域との交流にもより注力できるようになり、移動販売業務のよりよりサービス提供にもつながると感じています。

技術は「人」に寄り添ってこそ意味がある

―― 今回、前編・後編でお話を伺ってきましたが、地域でのICT導入で一番大切なことは何だと思われますか?

 これから高齢化が加速する地域で、上手に技術を活用していくためには“技術”じゃなくて、“人”です。技術は豊かな暮らしのためのひとつの生活の道具であり、その技術を使う人が「楽しい」とか、「安心できる」とか、そういう「共感」があってこそ初めて意味があります。だからこそ、「使えない」と諦めるのではなくて、この地域に暮らす高齢者はじめ幅広い年齢層の方が使えるよう、地域の声に寄り添いながらを技術を導入していくことが大切です。

―― 「技術の導入=負担の増加」では本末転倒ですよね。むしろ、その「共感」を大切にする設計こそが、未来の地域を支えるICTのかたちだと感じました。ありがとうございました。

筆者(サイト運営者)

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