高齢者が笑顔になる技術とは?ICT導入について現場実証からの提言(前編)

 地域のICT導入は「技術ありき」ではなく、「人に寄り添う設計」が鍵だと感じています。高齢化が進む中で暮らしをより豊かにするには、現場の声に耳を傾けながら、無理なく使える仕組みづくりが必要です。今回は、NPO法人ほほえみの郷トイトイ事務局長・高田新一郎さんに、高齢者が笑顔になるICT活用の取り組みと、その中で見えてきた課題と可能性についてインタビュー形式で伺います。

目次

高齢者のIT化の取り組み ~高齢者向けiPad講習会~

「まずは、現場を知ることから始まる」

―― 高田さん、今日はお時間ありがとうございます。早速ですが、今回の高齢者に向けたICT導入について、最初はどんなきっかけから始まったんですか?

 導入のきっかけは高齢者の方もスマホを持つのが当たり前の時代で「高齢者こそ技術の恩恵を受けるべきだ」という想いからです。現在50歳の方が20年後に70歳となられたときに、スマホやiPadなどのデジタル機器をうまく使いこなせたらよりよい暮らしの手助けになるのでは?と考え、もし使えるようになれば暮らしの幅がぐっと広がります。ちょうどケーブルテレビからタブレット端末をレンタルできる話があり、補助金を活用してIT講習会を企画したんです。

―― 高齢者の方もスマホで花の写真を撮ったり、LINEでお孫さんの写真を見たりして、楽しんでいらっしゃいますよね。

 そうですね。ただ講習会を実施していくなかで、見えてきた壁もありました。

「壊してはいけない」不安を払拭する

―― その「壁」とは何だったのでしょうか?

 「もし間違って操作したら壊してしまうのではないか」という操作への不安です。高齢者の方は「高価なものを間違って壊したらいけない」と思ってしまい、積極的に触れないんです。タブレットの操作が分からないからと、そもそも触ること自体に消極的になってしまう方も多くいました。 ITに慣れてない高齢者にとって、スマホなどは持っていらっしゃる方が多いものの、それらを密に生活に取り入れるわけではありません。レンタルしたタブレット端末での操作が難しく、高齢者の方にはわからないことばかりで、「どうしたらいいかわからない!」となってしまったのです。

―― 確かに、普段から使っていないと不安ですよね。だからといって使うことを怖がっていては講習会の意味もありません。

 そこで、講習会ではiPadに機種を統一し、「困ったらホームボタンを押せば大丈夫」という安心感を伝えました。「壊れない」「元に戻せる」と理解できれば、皆さんが少しずつ触れることに積極的になっていきました。

「やり方」ではなく「やりたい」を優先

―― 講習会では具体的にどんな指導をされたのでしょうか?

 操作マニュアル通りではなく、「やりたいこと」をするためにはどう使えばいいのかを教えるようにしました。例えば「花を撮りたい」という方にはカメラアプリの使い方、「レシピを調べたい」という方にはWeb検索の方法といった具合です。目的がはっきりしていれば、皆さんの「やりたいこと」なので覚えるスピードも早いんです。

―― 目的があるからこそ、苦手意識のあるものでも使うモチベーションになるんですね。

 そうです。「やりたい」が「できる」に変わると、自信につながります。実際にiPadを購入して、自分で新しいアプリを検索して楽しむようになった方もいました。講習会に参加された方で「突然入院することになったけれど、講習会のおかげでiPadで家族とのビデオ通話や脳トレゲームで過ごせて助かった」という声も届いています。

高齢者のIT化は「共感」から始まる

―― 高齢者の方が「使えない」と思っていたものを、伴走しながら教えて使えるようになり、暮らしが豊かになるのは地域としてもうれしいことですね。高齢者のIT化において、重要だと思うことはなんでしょうか?

 こうしたICT導入の第一歩は、マニュアルや最新技術ではなく、「共感」と「安心感」です。高齢者だから「使えない」と決めつけるのではなく、「どうすれば使えるようになるか」を一緒に考え、寄り添いながら支えていく姿勢が求められます。技術は、便利だから・最新技術だからと単に導入すればよいというものではありません。それを使う人の気持ちや生活に合ったかたちで届けることができて初めて、暮らしを豊かにする道具になります。

ーー 前編として、高齢者のIT化の取り組みのひとつとして実施されたiPad講習会についてお話を伺いました。後編では企業や地元IT事業者と連携したICT導入の実証実験、について触れていきます。本日はありがとうございました!

筆者(サイト運営者)

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