高齢化社会における高齢者の社会的孤立と地域コミュニティの弱体化
こんにちは、まつきおです。この記事を書いている現在、阿東地域に暮らし始めて早くも2年が経ちました。30代でのはじめての一人暮らしだったため、移住当初「一人暮らしってめっちゃ楽だ~!自由だ~!」とシングルライフ(現在も花嫁修業のためシングルであることにはかわりませんが)に喜んでいました。しかし一人暮らしに憧れていた頃に思い描いていた「一人暮らし」と、悲しきかな…現実はかなり違っています。仕事を終えて疲れた体で帰っても「おかえり」の声はなくひとり、「今日こんなことがあってね」と語る相手もいない、お腹がぐ~っと鳴っても自分自身で料理をして作らなくてはあたたかい食事はでてきません。
もっとも「一人暮らしのしんどさ・さみしさ」を痛感したのは、40度近い熱をだした時に朦朧とした意識の中で自分自身の看病をした時でした。一日がとても長く感じられ、薬を飲むための水を汲むことひとつにとっても、つらい体にムチを打って台所へいかなくてはならず、「家族がそばにいてくれたら…」と何度思ったことか。でも、一人暮らしと知っているご近所さんはじめ地域の方が「病気で寝込んでいる」という話を聞きつけ、「病気の時はこれ飲みんしゃい!」と自家製梅ジュースをもってきてくださったり、「熱はさがった?何かいる?」と電話をちょくちょくかけてくださったり…。一人暮らしだけど、田舎に暮らすとご近所さん同士の距離が近く「困ったときはお互い様」の相互扶助の精神が強いんだな~、と実感しました。
病気になったことをきっかけに「一人暮らし」のいいところ・悪いところ、阿東地域に根付く「相互扶助:お互い支え合うこと」のありがたさ、を知る機会を得ました。超!高齢化社会の阿東地域では、一人暮らし(または夫婦二人暮らし)の世帯数が増加しており、わたしもこの花嫁修業が終わらなければ老後も一人暮らしを続けているかもしれません。もしそうなったら、免許返納により行動範囲が一気に狭まり、若いからできていたことも年齢を重ねるごとに難しいことが増え「自分は何もできないんだ」と暮らしに対して前向きになれない状況に陥ってしまうことも考えられます。
「少子高齢化」「医療・介護ニーズの負担増加」「高齢者の社会的孤立と地域コミュニティの弱体化」など、東京に暮らしていた時はどこか「他人事」としてとらえていたことが、阿東地域に暮らすようになってからは、わたしも「高齢者」になった時に一人暮らしでも安心・安全に暮らせるのだろうか?と「自分事」のように向き合うようになりました。
この記事では阿東地域での高齢者の社会的孤立・地域コミュニティの弱体化対策の取り組みを、実例を交えてご紹介します!
社会的孤立と地域コミュニティの弱体化とは?
高齢者の社会的孤立とは、高齢者が他の人との交流や関わりが少なくなり、孤独を感じる状態を指します。家族や友人、ご近所さんとの接触が減り、周囲の支援や助けを受ける機会が少なくなることで、精神的にも身体的にも健康に悪影響を及ぼすことがあります。たとえば、一人暮らしの高齢者の方が周りに話し相手がいなかったり、外出する機会が少なかったりすることで社会的に孤立してしまいます。
田舎での社会的孤立の要因のひとつともいえるのは、免許返納による行動範囲の狭まりがあります。都会のように徒歩圏内に生活圏(スーパー、病院、銀行)があるというのは田舎ではまれです。そもそも免許返納をしたからバスに乗りたいけれど、家からバス停までが遠かったり(運行本数も限定的)、バスに乗れて買い物にいけたとしても大荷物を老いた体で持って帰るのは大変です。また、ご近所さん家へ遊びにいくにしても、家と家の間隔が広く、一軒一軒が離れて建っているため、都会に比べて隣人との交流が少なくなることが多いです。「バスに乗って買い物にいく」「ご近所さんの家へ歩いて遊びにいく」という一見簡単なようで実は田舎では難しいことがたくさんあります。その難しいことが重なった時、一人暮らしの高齢者の方は「できないわけではないが大変なこと」が「面倒」になっていき、さみしいことですが人との交流も諦めてしまう傾向があるように思います。
地域コミュニティの弱体化は、地域内での人々のつながりや交流が減少し、共同体としての機能や支え合いが薄れることを指します。これにより、地域住民同士の助け合いや情報共有が難しくなり、地域全体の活力や安全性が低下することがあります。例えば、昔は隣人同士が助け合っていたのに、今ではお互いに疎遠になり、困っている人がいても表立ってそれが見えてこないため気づかれない、といった状況が起こりやすくなります。
「昔は集落に6世帯住んでいたが、今は2世帯だけ。しかも両世帯とも一人暮らしで、家が離れており会話をすることがない」など、超!高齢化によって地域コミュニティ自体がすでに成り立っていないことも珍しくありません。人口減少は避けられないと思いますが、できないことはできる人に支えてもらい、「いきいき楽しく阿東地域で暮らす」ことを諦めてほしくはありません。
阿東地福地域でも、平成22年に地域唯一のスーパーが閉店することになり「買い物ができなくなる」という不安の声があがりました。買い物ができなくなること自体はもちろん問題でしたが、地域にとって本当に向き合うべきは、お買い物ついでの「地域の方同士の情報交換やおしゃべり、人と人との交流の機会」が失われることでした。その時地福地域はどうやってこの課題に対して向き合ったのか…を次でご紹介します!
実例:「人が集い笑う!ミニスーパートイトイ」と「安心と笑顔を届ける移動販売車トイトイ号」
「地福地域唯一のスーパーの閉店」を機に、地域の未来を見据え地域一体となって考えていこうと生まれたのが「地福ほほえみの郷構想」です。この構想は「地福地域に暮らす方が、将来の暮らしに夢を持ち安心して生活できるように、さまざまな年代の方(高齢者、団塊の世代、若年層などすべて)がそれぞれ抱える不安を、地域がひとつとなって支え合いながら解決していくことで、安心して笑顔で暮らせる地域づくりをする」というものです。
この地福ほほえみの郷トイトイ構想をもとに開設されたのが、ほほえみの郷トイトイです。地域課題に対してさまざまな形で取り組んでおり、この記事のテーマである「地域の方の社会的孤立・地域コミュニティの弱体化」にも向き合っています。その取り組みの実例を2つ紹介します。
①「笑顔がならぶミニスーパートイトイ」
ほほえみの郷トイトイでは日常のお買い物ができるミニスーパー機能を備えています。トイトイ工房(同施設内にある地域の方が手作りしたお惣菜を製造する部門)の手作りお惣菜をはじめ、食料品や日用品、地域の方が育てた新鮮な野菜の産直コーナーがあります。「腰がまがっても畑にでたら年を忘れる」という方がいるほど野菜作りを生きがいにしている高齢者の方も多く、「つくるのはたいぎ(面倒)だからトイトイさんのお惣菜が助かる」とお惣菜を買う方、「誰かいるかな?と思って寄ってみた!」とおしゃべりにくる方などさまざまな目的をもっていらっしゃいます。お買い物に来ていたら、久しぶりに知り合いに会ってちょっとした井戸端会議がはじまることもしばしば…。
ミニスーパーへいらっしゃる目的はさまざまですが、地福ほほえみの郷構想のもと、地域の方の暮らしを見守り支える地域拠点として機能し、地域の方の「笑顔」がならぶ場所となっています。
②「地域に安心・安全を届ける移動販売車トイトイ号」
阿東地福地域に所在をおく「特定非営利活動法人ほほえみの郷トイトイ」では地域課題に対する取り組みのひとつに移動販売車があります。この移動販売車トイトイ号は週5日間阿東地域内を巡回し、同法人施設内で製造された手作りのお惣菜をはじめ、生活に必要な日配品などを販売しています。地域の買い物支援はもちろんのこと、免許返納により移動手段がない高齢者や一人暮らしで不安を抱えている高齢者を中心に、地域からの孤立化を防ぐための見守りの機能も備えています。
「モノを売るのではなく、安心を届ける」をモットーに、「移動販売車でのお買い物」という限られた短い時間の中で、地域の方にその時間を楽しんでいただけるよう、雨の日も暑い日も雪の日も移動販売車は阿東内を走ります。移動販売員はKintoneによる情報共有を実施し、いつ・どの販売員が訪問しても地域の方の様子がわかるようになっています。「ご近所さん以上、家族未満」の間柄で地域の方とのコミュニケーションの図り方も工夫し、「トイトイ号があるから安心できる」といってもらえるような信頼関係の構築を目指しています。
わたし自身も移動販売車の販売員として阿東内を巡回し、地域の方と交流を通じて「ありがとう、トイトイ号があるから生きていけるよ」「また来週もあなたに会えるのを楽しみにしているからね」などの声かけをいただくことがあります。暮らしの安心・安全をお届けしている側ながらいつも元気のおすそわけをいただき、移動販売車が阿東内を走ることは日常の中の当たり前になっていて、これから高齢化が加速する阿東地域においてはなくてはならないものではないだろうか、と感じています。
まとめ
「今日一日気づいたら誰とも会話をしていなかった」、「一人暮らしだから気兼ねはないけれど、誰かに面倒をみてもらわなきゃいけないから、いっそ役に立たないなら早くお父さんのいる天国へ行った方がいい」なんて言葉を冗談でも聞くことは少なくありません。今まで苦労してきて老後ゆっくりと人生を楽しむべき時がきたのに、高齢者となり難しいことが増えてくると、特に農山村や地方では途端に弱い立場になってしまう。本当にしたいことがあっても我慢してしまったり、面倒に感じてしまったりして諦めてしまう…という方がいるのは事実です。
できないことを地域のできる他の人が支え、一日の内のほんの限られた時間でも誰かと笑って話したり「阿東地域でのいきいき楽しい暮らし」をしてほしいと願っています。わたしも一人暮らしをする一人として、これからも地域と地域に暮らす人がこれからも元気に暮らしていける地域づくりであり続けられたらいいな、と思うまつきおでした。