「【高齢化社会×孤立化対策】過疎地・農村の高齢者支援のリアルな現場から見える課題と未来
日本は世界でも類を見ないスピードで高齢化が進んでいます。その中で、特に地方の過疎地域や山間部では、高齢者の社会的孤立が深刻化し、「ポツンと一軒家」に代表される孤立死のリスクも高まっています。私自身、山口県阿東地域で地域おこし協力隊として活動していた頃、この問題に直面してきました。
例えば、買い物支援・地域の見守りサービスを担う移動販売業務で利用者の方のご自宅へ訪問した時に、つい先日までは他愛もない会話をして「また来週」と手を振った利用者さんの「孤独死の現場」に立ち会うこともあります。見守りサービスを担う異動販売車ですが、孤独死の現場を目の当たりにすると「もっと何か提供できることがあったのではないか」と胸が締め付けられる思いです。単なる人口減少や高齢化だけでなく、地域コミュニティの弱体化が孤立化を加速させている現実がそこにあります。
本記事では、高齢化社会における高齢者の社会的孤立の現状と、地域コミュニティの役割、さらには実際に阿東地域で行われている孤立化対策の具体例を紹介しながら、孤立化対策の可能性と課題を探ります。
農山村地域に迫る「孤立化」のリスク
高齢化社会における社会的孤立とは?その定義とリスク
この「社会的孤立」とは、単に「一人で暮らしている」状態とは異なり、社会的なつながりや支援ネットワークが欠如している状態を指します。地域から孤立した高齢者は、健康リスクの増加、うつ病や認知症の発症リスク上昇、緊急時の対応困難など多くの問題を抱えています。厚生労働省の研究では、社会的孤立は死亡リスクを高める重要な要因のひとつともされています。
高齢社会と孤立化の現状(統計・推計)
総務省の統計によると、2025年には日本の65歳以上人口が全体の約30%に達すると予測されています。特に地方部では若年層の都市流出により、高齢者の割合が極端に高い地域が多数あります。こうした地域では、親族や友人の減少、公共交通の衰退、医療や買い物施設の不足により高齢者が孤立しやすい環境が生まれています。

総人口に占める高齢者人口の割合の推移をみると、1950年(4.9%)以降一貫して上昇が続いており、1985年に10%、2005年に20%を超え、2019年は28.4%となりました。

国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、この割合は今後も上昇を続け、2025年には30.0%となり、第2次ベビーブーム期(1971年~1974年)に生まれた世代が65歳以上となる2040年には、35.3%になると見込まれています。
地域名 | 世帯総数 | 単独世帯数 | 単独世帯割合 | 高齢化率(参考) |
---|---|---|---|---|
阿東(地福上) | 235世帯 | 83世帯 | 35.3% | 約60.9% |
小郡地区(山口市西部) | 10,865世帯 | 2,467世帯 | 約22.7% | 約27.6% |
湯田温泉周辺(中心部) | 3,864世帯 | 1,127世帯 | 約29.2% | 約23.1% |
阿東地域でもコロナ以降、一人暮らしの高齢者世帯は、阿東地福地域でも総世帯数235世帯のうち、単独世帯(1人世帯)と83世帯、約3分の1が単独世帯(うち高齢者(65歳以上)であるとされています。同じ市内にある他の地域と比較してもその差は歴然です。阿東地域の高齢化率が約60%に対し、小郡や湯田温泉周辺は約20〜30%程度となっています。
出典:総務省統計局「高齢者人口」
https://www.stat.go.jp/data/topics/topi1211.html
内閣府「ワーク・ライフ・バランスレポート2018」
https://wwwa.cao.go.jp/wlb/government/top/hyouka/report-18/h_pdf/s3-4-3.pdf
厚生労働省「孤独・孤立対策に関する基礎資料」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kodokukoritsu.html
地域の統計地理データタウンチェック「山口県山口市阿東地福上の人口・世帯」
https://towncheck.jp/areas/352031520/detail
国勢調査・e-Stat「時系列データ 単独世帯数」
https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&layout=datalist&toukei=00200521&tstat=000001011777&cycle=0&tclass1=000001011805&stat_infid=000001086178&tclass2val=0
高齢化・過疎化が進む現場から見る孤立化対策の可能性

山口県阿東地域では、NPO法人ほほえみの郷トイトイの取り組みの中で、孤立化対策の役割を担う「ミニスーパー トイトイ」と「移動販売車 トイトイ号」が地域を見守りを続けています。
小さな地域拠点ミニスーパー「トイトイ」の役割
ここではスーパーとして食料品や日用品の販売するだけではありません。地域の情報交換の場としても機能し、高齢者をはじめとする地域住人同士が自然と交流を持てる場所になっています。個人で栽培した野菜を産直野菜として委託販売することもできます。さらに、ミニスーパーの奥には交流スペースを完備、「買い物に来たら、お友達で会ったからついでにお茶をしていこう」と憩いの場になっています。
地域の方から「ひとりで家にいるのは退屈。だけどここに来ることで、ただ物を買うだけでなく誰かと話せたり、困ったことがあったら相談もできる。働くスタッフも親身に対応していくれるから助かる。」と話してくれました。孤立しがちな環境でも、こうした「居場所」が孤立感の軽減に大きく寄与していることを実感しました。
移動販売車「トイトイ号」と見守り機能
さらに移動販売車「トイトイ号」が地域内を巡回し、食品や生活必需品を販売しています。この移動販売車も単なる買い物支援にとどまらず、お買い物の様子を情報として共有するなどして地域の見守りネットワークとしても機能しています。
実際、移動販売車のスタッフは利用者の様子を見守り、異変があれば地域包括支援センターなどに情報共有するなどして、地域全体で見守りができるよう努めており、これが孤立死の未然防止にもつながっています。


国・自治体の制度と現場の孤立化対策のギャップ
地域包括ケアの現状と課題
国や自治体は地域包括ケアシステムの推進や見守りネットワークの強化に注力しています。厚生労働省の「地域包括ケアシステム推進事業」では、「高齢者が住み慣れた地域で安心して生活できる体制づくり」を掲げています。地域包括支援センターの設置や訪問介護、通いの場の確保など、制度的な枠組みは整いつつあります。
「届ける支援」の壁と人材不足
しかし、地域の高齢化・過疎化が加速する地域では人手不足や財政制約、住民の意識不足といった課題が山積しています。山口市でも、地域格差により阿東地域のような山間部では十分なケアシステムとして機能しきれていません。
加えて、高齢者自身が生活に何らかの不便を感じていても制度を知らない、家族に相談する必要があるが同居していないので相談しずらい=利用しづらいケースが多く、地域コミュニティ自体が弱体化により見守りの目が届きにくい現状も課題です。
項目 | 計画目標 | 現状とのギャップ |
---|---|---|
基盤強化(支援センター等) | 地域ケア会議・センター機能の強化 | 山口県内では「専門職派遣」や頻繁な地域ケア会議を実施済み。一部、地域格差の存在あり |
介護予防 | 通いの場・体操などを住民主体で展開 | 「やまぐち元気アップ体操」等が定着しつつあるが、阿東地域などでの普及や参加率に改善余地あり |
医療・介護連携 | 在宅医療との連携促進 | 山口市等では実施済だが、過疎地や人材不足地域では未整備な部分も顕在化 |
認知症対策 | 認知症施策・社会参加の促進 | 「もの忘れ相談医制度」などの整備済み。地域間でのアクセス格差も存在 |
介護人材 | 必要人材の確保と効率化の進展 | 2026年に約2,749人の介護職員不足の見込み |
成果測定・PDCA | 進捗評価体制の確立(推進会議等) | 毎年推進会議開催。評価指標によるモニタリングと改善の仕組みが稼働中 |
出典:厚生労働省「地域包括ケアシステムと生活支援体制整備事業について」
https://kouseikyoku.mhlw.go.jp/kantoshinetsu/houkatsu/000285097.pdf
山口市シニア生活応援サイト「山口市地域包括支援センター」
https://www.city.yamaguchi.lg.jp/site/korei/4741.html
山口市長寿福祉課「第八次やまぐち高齢者プラン(令和6年度~8年度)」
https://www.pref.yamaguchi.lg.jp/soshiki/49/249347.html
孤立化を防ぐ地域づくりに必要な視点
高齢化社会におけるICT孤立化対策の可能性と限界
地域コミュニティの弱体化は高齢者の孤立化を加速させる最大の要因の一つです。かつての農村社会では、祭りや共同作業、隣近所の助け合い「てご」が日常的に行われていました。しかし、核家族化や都市化、ライフスタイルの変化により、顔の見える関係が希薄になっています。
この弱体化を防ぐための対策には、地域コミュニティの強化や共助の仕組み作りが不可欠です。近年ではICT技術を活用した取り組みも進められています。例えば、スマホを活用した安否確認やSNSでの情報共有など、人口減少の進む地域でも新たな手法で地域のつながりを補完することができます。



「顔の見える関係性」がもたらすもの
しかし、技術頼みだけでは不十分で、「直接会って話す」「顔を合わせる」関係性の醸成が最も重要だと私は感じています。技術が進歩しても、最終的に人が安心・安全を感じ得るのは「人と会話する」「顔を合わせる」「声を聞く」など、デジタルなものでは得られないモノであると、地域に暮らす中で痛感します。
住み慣れた地域で元気に暮らすために~孤立化対策の未来に向けて~
一人ひとりの声かけが、孤立を防ぐ第一歩に
高齢化社会が進む中で、農村・過疎地域の「孤立化問題」は決して他人事ではありません。とくに阿東地域のような高齢化率60%を超える地域では、制度やサービスだけでは埋めきれない「見えない孤立」が日々深まっています。しかし、地域住民の声かけ一つ、訪問一回が、命を救うこともある――これは私自身が現場で何度も体感してきたことです。
孤立化対策とは、特別な専門家だけができることではありません。例えば「最近○○さん、元気にしてる?」「またお茶でも飲もうね」といった、何気ない会話や気にかける姿勢が、地域のつながりを守る大きな力になります。ICT技術や制度も重要ですが、それを活かすのはやはり「人と人との関係性」なのです。
もちろん、地域ごとに事情は異なります。阿東のような山間部では、交通や医療のアクセス問題も深刻です。一方で、「誰かが来てくれる場所」「誰かに頼っていい場所」があるだけで、心の孤立はぐっと減ると感じています。ミニスーパー「トイトイ」や移動販売車「トイトイ号」は、その象徴ともいえる存在です。
孤立化対策の未来に向けて必要なのは、「制度×地域の知恵×共感力」の掛け算です。そして、その第一歩は、あなた自身が誰かに関心を持つこと、声をかけること。それが「地域を守る力」になり、いずれは自分自身を支える循環となって返ってきます。
高齢化社会をどう支えるか?――その問いに正解はありません。でも、確かなことが一つあります。それは、「誰もが“ひとりじゃない”と感じられる社会」こそが、最も力強い孤立化対策である、ということです。日本社会の高齢化は統計的にもこれから加速していくとされています、皆さんの地域もこれからどのような取り組みができるでしょうか?
加速する高齢化、孤立化を防ぐために今どうすべきかーーあなたの声掛けが誰かの孤立を防ぐ一歩になるかもしれません。